樹脂加工用のバイト

こんにちは。
いつも誰得な印象のある記事ばかり書いている溝部です。
ということで、今日は樹脂加工用のバイトについて書きたいと思います。


旋盤加工用に使用するバイトは、通常アルミや鋼、真鍮等を切削することを想定して作られているので、ハイス鋼や、超硬合金、果てはダイヤモンドなど、硬くて丈夫(少々語弊があるかもしれませんが……)な材料で作られています。
この理由は簡単で、弱い材料で出来た刃物で強い材料を削ると、あっという間に刃物の方が摩耗して切れなくなってしまうからです。


こういったハイスや超硬でできたバイトは、一本千円から数千円しますが、何度も研ぎながらそれなりに長く使えますし、いろいろな形状を数種類のバイトだけで削ることが出来るので、そこまで高い物とは思っていません。


しかし、NC装置なしの汎用旋盤を使用している限り、基本的な片刃バイト等だけでは出来ない形状というのがあり、その1つが曲面を含む形状です。
旋盤の刃物は、送り軸にそって移動し、切削を行うので、曲面を削るにはバイトを円弧状に動かせばいいだけです。
しかし、送りは人間がハンドルを回して行うので、例えば球面を切削しようとしたら、x2+y2=r2の関係を維持して送りハンドルを回さなければならず、非常に困難です。また、バイトは1次元の幅がない直線ではなく、幅があるので狭いR形状はきわめて幅の狭いバイトが必要になるなど、加工が困難です。


そこで登場するのが以前ボールジョイントの製作で紹介したような総形バイトです。総型バイト


 


 


 


 



 


 


目的形状と逆の形状の刃先を持つバイトで切削すると、形状が転写されます。


汎用機でこのような形状を作りたい場合、形状に合わせこういった総形バイトを製作します。
しかし、総形バイトは他の片刃バイトなどと違い、その形状の加工にしか使えないのです。
そこで先ほどの話に戻るのですが、こういったバイトの元となるハイス製の完成バイトは、一本千円から数千円、少数しか作らないワークのためにこの値段は少々コストパフォーマンスが悪いです。
しかし、削る相手が樹脂であったらどうでしょうか?
よくお菓子などにプラスチック製のナイフが付属していることがあります。
このナイフでは魚の骨などは切れませんが、ケーキを切っても切れなくなったりはしません。
これと同じで、樹脂しか削らないなら、弱くて安い材料でバイトを製作しても問題ないわけです。


自分が使っている材料はこれ↓
鉄板


 


 


 


 


 


 


何の変哲もない、ゴミ捨て場で拾ってきたただの鋼板です。これを細く切り出して、グラインダーで成型し、刃をつけてバイトにします。
通称「鉄板バイト」って所でしょうか……普通に聞くと、これを使っておけば安心な定番バイト……って思えますが、文字通り鉄板から作られたから鉄板バイト(笑)です。
コストの他にももう一つ利点があるのですが、それは加工性です。
ハイスのバイトをグラインダーで削ろうとすると、硬くてなかなか削れず、削り取る量が多い突っ切りバイトや中繰りバイトを作るときは、腰が痛くなるくらいグラインダーの前で中腰姿勢……なんて事もあります。
ですが、通常の鉄板は軟らかいので、どんどん削っていけます……まあ、それでもサクサク削れるというほどではないのですが。
今回目的とするのは、Oリングをはめるための円弧状の溝です。
そのために作ったバイトがこれです。
鉄板バイト


 


 


 


 


 


 


 


卓上グラインダーを使用し、先端を目的の太さに成型した後、同様にグラインダーでR形状を成型します。
この後、逃げ面を成型し、最後に砥石の角を使ってすくい角をつけて完成です。長時間砥石に当てていると熱くて持っていられなくなるので、水を入れた容器を用意し、それで冷やしながら加工します。
熱いだけではなく、ハイスのバイトだと、過熱により焼きが戻ってしまうこともあるので、こまめに冷やしてください。
このバイトを使用して加工した部品がこれです。
Oリング溝


 


 


 


 


 


 


 


 


少し画像が汚いのですが、R溝が切れているのが分かると思います。
これにシリコンのOリングをはめたところがこれです。
エンコーダ測定輪


 


 


 


 


きれいにOリングがはまっています。
ちなみに、マイクロマウスの独立接地型エンコーダ用の車輪です。
全部で2つしか作らないので、このために完成バイトを用いるのはもったいないですね。
顕微鏡がないので確実なことは言えませんが、目視で見たところ、加工後に刃先の摩耗などは見られませんでした。
相当数を加工しない限り、実用的に使用可能だと思います。


実はこの鉄板バイトでアルミや真鍮を切削したこともあるのですが、それなりに切れることは切れました。
しかし、やはり短期間に摩耗していまいました。
まあ、特殊形状の加工用で、数回しか使わない使い捨て……ということなら金属にも使えるかと思います。
たぶん鉄以上には文字通り刃が立たないと思いますが。


ハイスは高いからとか、近くで売ってないからといった理由で……とバイトの自作をしたことがない人にも、これなら手を出しやすいと思います。
失敗しても、金銭的ダメージは低いですしね。


ただし、繰り返しますが卓上グラインダーは危険な機械なので、指を吹っ飛ばさないよう、くれぐれも注意して作業してください。
何かあっても自分は責任をとれませんので……。
溝部

“樹脂加工用のバイト” への1件の返信

  1. ごめんなさい。コメントしにくいですね。
    今度は接地型車輪が付いているマウスの画像に期待しています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です